介護事業のM&Aの解説
介護業界のM&Aは、高齢化社会の進行や介護需要の増加に伴い、急速に増加しています。この増加の背景には、介護事業所の経営者の高齢化、後継者不足、経営資源の集約化のニーズなどが挙げられます。また、異業種からの新規参入や市場の拡大もM&Aの動向を後押ししています。
M&Aの基本知識
M&Aは、企業の成長戦略や経営資源の最適化を目的として行われる手法です。具体的には、企業同士が合併する「Merger」や、ある企業が他の企業を買収する「Acquisitions」を指します。しかし、実際のところ、M&Aには資本提携や業務提携といった、企業間のさまざまな協力関係も含まれます。日本において、M&Aの多くは中小企業を対象として行われており、介護業界もその例外ではありません。中小の介護事業所が大手企業や他の中小企業と経営統合を行うことで、経営の安定化やサービスの質向上を図るケースが増えています。
介護業界の現状
日本は急速に高齢化が進行しており、2025年には全人口の3割が65歳以上となると予測されています。この高齢化の進行に伴い、介護のニーズは増加の一途を辿っています。しかし、介護業界自体は多くの課題に直面しています。人材の確保が難しく、特に若い世代の介護職への就職意欲が低いこと、報酬の低さや労働環境の厳しさが問題となっています。さらに、多くの介護事業所は中小規模であり、経営者の高齢化や後継者不足といった問題も深刻化しています。このような背景の中、M&Aは介護事業所の経営の安定化やサービスの質向上のための有効な手段として注目されています。
介護業界のM&Aの動向
介護業界のM&Aは、2012年から増加傾向にあり、2018年には年間80件を超える件数が確認されています。この増加の背景には、経営者の高齢化や市場の拡大、異業種からの新規参入など、様々な要因が影響しています。
介護事業所側のM&A理由
介護事業所の経営者が高齢化するという現象は、日本の高齢化社会の影響を受けています。多くの介護事業所は、設立当初から一貫して同じ経営者が運営してきたため、その経営者が高齢になると、後継者問題が浮上します。特に、家族経営の場合、次世代が異業種に進出しているか、介護業界に興味を持たない場合が多く、経営の継続が困難になることがあります。このような背景から、他の企業や団体との合併や買収を検討するケースが増加しています。
業務を取得したい側の理由
介護市場の拡大
日本の高齢化が進行する中、介護の需要は増加の一途をたどっています。このような市場の拡大を背景に、他の業界からの新規参入が増えています。特に、不動産業やサービス業など、異業種からの参入が目立っています。
介護付き有料老人ホームの新設が難しくなる総量規制
介護付き有料老人ホームの新設には、多くの規制や条件が存在します。これにより、新規に施設を建設することが難しくなっています。そのため、既存の施設や事業所を買収することで、迅速に市場に参入する動きが見られます。
医療と介護の連携強化
高齢者の健康管理には、医療と介護の両方が欠かせません。このため、医療機関や製薬会社などが、介護業界への参入を検討するケースが増えています。これにより、一貫したサービスの提供や、新しいビジネスモデルの開発が期待されています。
これらの理由から、介護業界へのM&Aは、今後も増加することが予想されます。
介護事業のM&A手法
介護事業のM&Aには、株式譲渡、子会社化、業務提携などの手法が存在します。それぞれの手法には、特徴やメリット、デメリットがあります。
株式譲渡
株式譲渡は、経営者や株主が保有する株式を他の企業や個人に譲渡することで、経営権を移転する手法です。この方法の主な特徴やメリット、デメリットは以下の通りです。
特徴
事業の継続性が高く、経営の流れを保つことができる。
メリット
後継者がいない場合や、急な経営の移転が必要な場合に迅速に対応できる。また、譲渡価格を受け取ることで、資金調達や退職後の生活資金として利用できる。
デメリット
譲渡後の経営方針や企業文化の変化により、従業員や顧客との関係が変わる可能性がある。
子会社化
子会社化は、大手企業や他の企業が介護事業所を子会社として取得する手法です。主な特徴やメリット、デメリットは以下の通りです。
特徴
親会社の資本やノウハウを活用して、事業の拡大や効率化を図ることができる。
メリット
親会社のブランドやリソースを活用して、競争力を向上させることができる。また、経営の安定性が向上する。
デメリット
親会社の経営方針や企業文化に合わせる必要があり、自由度が低下する可能性がある。
業務提携
業務提携は、異なる企業同士が特定の業務やプロジェクトにおいて協力関係を結ぶ手法です。資本の移動は基本的に行われません。主な特徴やメリット、デメリットは以下の通りです。
特徴
双方の強みやリソースを活用して、新しい価値を生み出すことができる。
メリット
資本的な結びつきを持たずに、特定の業務やプロジェクトにおいて協力することができる。リスクを分散させることができる。
デメリット
提携の目的や期間、範囲などを明確にしないと、双方の利益が衝突する可能性がある。
これらの手法は、介護事業の特性や経営状況、将来のビジョンに応じて選択されるべきです。
介護事業のM&Aでの検討ポイント
介護事業のM&Aを検討する際には、多くの要因やポイントが影響します。以下はその主要な検討ポイントです。
経営状況の確認
介護事業所の財務状況や経営の健全性を確認することは、M&Aの成功のための基本です。過去の業績や将来の収益予測、負債の有無などを詳細に調査することが必要です。
利用者やその家族への説明
M&Aが進行すると、利用者やその家族にとっては大きな変化となる可能性があります。そのため、事前に十分な説明やコミュニケーションを行い、理解と協力を得ることが重要です。
既存スタッフの継続雇用
M&A後も既存のスタッフを継続して雇用するか、あるいは一部のスタッフを解雇するかは、経営戦略や人材の質によって異なります。この点も十分に検討する必要があります。
行政との折衝
介護事業は行政の指導や監督を受ける業界であるため、M&Aに伴う許認可の移転や変更、新たな指導や要請など、行政との折衝が不可欠です。
まとめ
介護業界のM&Aは、高齢化社会の進行や介護需要の増加に伴い、今後も増加することが予想されます。M&Aは単なる経営の手法ではなく、より良いサービス提供や効率的な経営のための戦略として位置づけられるべきです。そのため、M&Aの増加背景や動向、検討ポイントを深く理解し、適切な判断と実行を行うことが、介護事業の発展と利用者の福祉向上のためには不可欠です。
最後に
今回の記事では、介護業界に起きている流れを簡潔にまとめてご紹介させていただきました。
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